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天然ゴムと似た分子構造をもちながら、調合できる特徴をもつ合成ゴム系粘着剤。特徴や注意すべきポイントを解説します。
縄跳びのような分子構造

水色の分子はスチレン、白色の糸状の分子はブタジエンを表します
合成ゴムはその名の通り人工的に合成したゴム素材のことで、1960年代から広く普及しています。ゴムの木から採取したラテックスを原料とする天然ゴムと比較すると、分子構造に違いが見られます。
天然ゴムは長い分子の鎖(ポリマーチェーン)が絡み合っていますが、合成ゴムは弾性・柔軟性に優れるブタジエンの両端に硬いスチレン分子が鎖のようにつながっています。この構造をスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体といい、SBSと記します。その見た目は、まるで縄跳びのよう。スチレンが持ち手で、ブタジエンが柔軟な縄です。天然ゴムと似た分子構造をもちながら、粘着テープの用途に合わせてブタジエンの部分を調合できるという点が特徴的といえます。
SBSの他にもスチレンブロック共重合体(SBC)やスチレン-スチレン-イソプレンブロック共重合体(SIS)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、ホットメルトの一部も合成ゴムの仲間です。
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スチレンとブタジエンの割合と特性

スチレンとブタジエンの割合によって硬さに違いが生じます
SBSは、硬いスチレンとやわらかいブタジエンの割合によって硬さに違いが生じます。スチレンの割合が大きい(ブタジエンが短い)と粘着剤は硬くなります。粘着剤の形を保とうとする「凝集力」が強くなるため、せん断強さ(保持力)に優れる特性をもちます。
反対にブタジエンの割合が大きい(ブタジエンが長い)と粘着剤はやわらかくなります。表面の凹凸に入り込む「濡れ性」に優れる特性をもつため、粘着力(剥離粘着強さ)が強まります。
合成ゴムの特徴

tesa EasySplice
合成ゴムは天然ゴムと同じくタック(べたつき)をもちません。粘着付与剤(タッキファイヤー)を配合して製造するため、食いつきがよく濡れ性に優れる特徴があります。LSE(低極性、難接着材料)とも比較的相性がよく、被着体の素材を選ばず汎用的に使うことができます。天然ゴムとは異なり透明にできる点も特徴です。
生活に身近な梱包用テープに使われることもあれば、製紙・商業印刷で生じるスプライス工程のためだけに開発された製品に使われることも。一瞬で確実につなぐことが求められるため、さらにタックを強めた粘着剤が使われています。
のばしてはがす「テサ パワーストリップ®」

テサ パワーストリップ® 高さ調節フック
1994年にドイツで発売した両面粘着テープの「テサ パワーストリップ®」にも合成ゴム系粘着剤が使われています。端をつかんで引っ張ると、粘着剤のベタベタを残さずキレイに剥がすことができる商品です。のちに他社メーカーからも類似商品が発売されましたが、この仕組みを最初に生み出したのはテサでした。
現在は粘着フック(高さ調節フック)として日本国内でも販売をおこなっています。また、この技術を進歩させた「ボンド&ディタッチ」という製品も。こちらは法人向けの製品で、スマートフォンのバッテリー固定に採用されています。
注意すべきポイント

様々な利点をもつ合成ゴム系粘着剤ですが、使用する際に注意すべきポイントもあります。40℃以上の高温環境では粘着剤がやわらかくなります。タックは強まりますが、凝集力と粘着力が弱まる傾向が見られます。これは天然ゴム系粘着剤も同様です。
紫外線(UV)による影響を受けやすい点も注意が必要です。天然ゴムほど顕著な変化は見られませんが、直射日光に晒される場合はご注意ください。安定剤を配合することにより、一定程度の耐UV性をもつ場合もあります。
高温になりやすい場所や屋外で使用する場合は、アクリル系粘着剤の粘着テープがおすすめです。
合成ゴム系粘着剤の特徴[まとめ]
- 人工的に合成したゴム素材で、目的に合わせて調合が可能
- タック(食いつき、濡れ性)が強く、LSE(低極性、難接着材料)とも比較的相性がよい
- 透明の粘着剤を作ることもできる
- 40℃以上の高温になると、凝集力と粘着力が低下する
- 紫外線の影響を受けやすい
以上が、合成ゴム系粘着剤の主な特徴です。
粘着テープの選定にお困りの際は、当社へお問い合わせください。「どこで」「どのくらいの期間」「どんな目的のために」使用するか、被着体の素材や使用環境などの条件に合った製品をご提案します。