天然の粘着剤から学ぶ

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大自然は最高の「研究ラボ」です。生物たちがつくり出す天然の粘着剤は、研究者も舌を巻くほど優れた性質を発揮するものばかりです。

著者 Isabel Überhoff

大自然から学ぶ

植物の光合成やロータス効果(ハスの葉の表面がもつ自浄性)など、不思議で優れた現象が多く存在しています。研究を進める私たちはいつも大自然の力に驚かされ、自分たちが未熟な存在であると感じさせられます。現代においても、植物や動物がもつ成分をまねた物質の開発や、特性を活かした製品などの研究開発を進める研究者も多くいます。

ロータス効果もそのうちのひとつです。ハスの葉が分泌している成分や葉の表面構造から得られた研究成果を応用し、水に濡れない撥水性能(機能)が発達しました。粘着剤という観点で大自然を観察すると、研究対象はたくさんあります。命のあるところに様々な天然の粘着剤が存在しています。

わたあめ

くらしに身近な砂糖を例に考えてみましょう。糖は炭水化物(糖質)の一種で、細胞にとって糖はエネルギーの源です。すべての動物や植物が生きるために欠かせない物質です。それだけではありません。一定の条件下では、砂糖は粘着剤として性能を発揮することがあります。

子どものころ、わたあめを手で触ったときベトベトになって指をなめた経験はありませんか?砂糖の結晶に含まれる水と酸素が湿気によって分離すると、水素は再び酸素と結びつこうとする性質がはたらきます。これにより、身近なものに吸着しようと作用するのです。これが、わたあめがベタベタする原因です。

極論ですが、糖をベースにしたものはすべて粘着剤と言えます。

Andreas Westphal

tesa Analytics

小さな生物がもつ天然の粘着剤

技術が発達した現代でも、どんなものにでも使える接着剤や粘着剤の開発は難しいのが現状です。しかし、小さな動物や植物は初めから幅広い用途で使えるものをもっています。

カタツムリの粘液は強力で、葉の裏面にくっついて移動しても落ちません。フジツボやムール貝は何百年も前から当然のように、陸上・海中どちらにも強くしっかりくっついています。ヤモリは壁の表面がツルツルでもデコボコでも関係なくしっかりくっつき、足跡を残すことなく暮らしています。

カタツムリ

しっかりくっつき、はがせて、再利用できる。私たちはそんな理想の製品を追い求めています。まだ自然の粘着剤には及ばないものの、現在テサが提供するパワーストリップ®という両面粘着テープは、ベタベタを残さずキレイにはがせる粘着剤を使用しています。

しかし、これからの時代は性能だけではなくサステナビリティも重要です。環境にやさしい製造技術の発展や、廃棄された製品が自然へと還る生分解性などが注目されています。技術開発を担うBastian Brinkmannは、この流れを次のように語っています。

「私たちはサステナブルな材料を多く採用した製品開発や、溶剤を使用しない製造工程の技術発展に取り組んでいます。徐々に天然の粘着剤へ近づいているように感じますが、天然の粘着剤を手本とする理由はサステナビリティだけではありません。」

1.3トン

自然界最強の接着剤

水生細菌のカウロバクター・クレセンタスが分泌する多糖類物質は、小さな硬貨ほどの面積で1.3トンのものを持ち上げることができます。自然界で最も強力な接着剤と言われています。

(出典: Spiegel)

優れた性能を発揮し、環境にもやさしい。天然の粘着剤から多くのことを学んでいます。

Bastian Brinkmann

技術開発マネージャー

クモの巣

人類が夢見るスパイダーマンの実現

超人のヒーローやなんでもくっつける接着剤など、人々は実現不可能なことを追い求めます。クモの巣を例に挙げ、物事の見方を逆にしてみましょう。同心円状のクモの巣は円網と呼ばれ、天候の変化にも負けず獲物をを捕らえる粘性があります。紫外線や雨にも負けないほど丈夫で、この性質がSFヒーローのスパイダーマンがもつ強力な武器として表現されています。

現実の世界では、クモの巣がもつこの不思議な力をどのように活用できるのか、日々研究が進められています。アメリカのアクロン大学高分子科学の研究者たちが、湿度が高い環境下でもクモの巣がくっつく理由の解明に近づきました。クモの巣に含まれる成分が水分を吸収することで、巣の構造に与える影響を最小限に抑えていることがわかったのです。

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自然由来の粘着剤の研究成果は、他にもあります。テサのパートナーであるドイツのハンブルク工科大学で数年間にわたって研究されている自然由来(バイオマス)の粘着剤開発プロジェクトです。このプロジェクトでは、木に含まれているリグニンという成分についての研究が進められています。

リグニンは現在も接着剤や粘着剤に使用されています。リグニンは天然由来のポリマーの中で最も一般的なもので、石油由来の成分に対する代替品として期待されています。

リグニンの利点は、木や藁などの再生可能な素材から得ることができることです。燃焼すると大気から吸収して蓄えた炭素を大気へ放出しますが、また木や藁を育てることで炭素を吸収できるサイクルを持続することができます。

一方、石油は長い年月をかけなければなりません。大気へ炭素の放出ばかりが進み、吸収できる量はごくわずかです。このことから、再生可能な天然素材(バイオマス)への切り替えが進んでいるのです。

テクノロジーへの応用

天然由来の物質や、天然の接着剤がもつ性能や利点の謎を解き明かす研究は、まだ始まったばかりです。既に多くのことが解明されているため、明るい未来が待っていると信じています。

カタツムリの粘液は乾燥した環境下では粘り気があり、しっかりくっつきます。粘液が水に溶けると、粘着剤としての性能がすぐ失われてしまいます。アメリカのペンシルベニア大学の研究者たちは、ここに着目し2019年にこの粘液に似た性質をもつ高分子ゲルを開発しました。弾力があり簡単にはがすことができる性質や、ガラスのように固く強力にくっつけることができる性質へと、水分量によって変化します。逆にガラスのような状態から弾力のある状態へ戻すこともできるそうです。

私たちテサの研究施設でも、ヤモリの分泌液に似た特性をもつテクノロジーを研究しています。不可能だと思われてきた「どんなところにもくっつく理想の粘着剤」の実現は、すぐそこかもしれません。